健康情報

2022.07.02不眠症治療薬について

不眠症治療薬と聞いて皆さんは何が思い浮かびますか?
不眠症治療薬はクセになるし、認知症にもなりやすいからなるべく服用しない方がいい!という認識がありますか?
近年の研究で分かってきたことも交えて、不眠症治療薬について学んでいきましょう。

①そもそも不眠症って?

厚生労働省が運営している健康情報サイト(e-ヘルスネット)によると不眠症とは、入眠障害・中途覚醒・早朝覚醒・熟眠障害などの睡眠問題が1ヶ月以上続き、日中に倦怠感・意欲低下・集中力低下・食欲低下などの不調が出現する病気です。不眠の原因はストレス・こころやからだの病気・クスリの副作用などさまざまで、原因に応じた対処が必要です。」となっています。

また、日本睡眠学会では以下のように不眠症を分類しています。

A. ⼊眠困難、睡眠維持困難(中途覚醒)、早朝覚醒、慢性的に⾮回復性または睡眠の質の悪さの訴えがある
  ⼩児では睡眠困難がしばしば養育者から報告され、就寝時のぐずりや1⼈で眠れないなどのこともある

B. 上記の睡眠困難は、睡眠にとり適切な状況、環境にかかわらずしばしば⽣ずる

C. 患者は夜間睡眠困難と関連した⽇中機能障害を以下の少なくとも1つの形で報告する

1)疲労感、不快感  
2)注意⼒、集中⼒、記憶⼒の低下  
3)⽇中の眠気
4)社会的、職業的機能低下、または学業低下  
5)気分の障害またはいらいら感
6)動機づけ(モチベーション)、活動性、積極性の減弱
7)仕事のミスや運転中の事故のおこしやすさ
8)睡眠不⾜による緊張、頭痛、胃消化器症状  
9)睡眠についての⼼配、悩み など

②不眠症治療薬の種類は何がある?

不眠症治療薬は大きく分けて5つに分類されます。

1⃣ベンゾジアゼピン系睡眠薬(BZ系)・・・脳内のベンゾジアゼピン系受容体に作用することでGABAの受容体を  
                    刺激して催眠作用を促す。副作用として、ふらつき、転倒などがあり
                    ます。また、作用時間によって以下の分類が一般的です。

・超短時間作用型(超短時間型):ミタゾラム(商品名/ドルミカム)・トリアゾラム(商品名/ハルシオン)
・短時間作用型(短時間型):エチゾラム(商品名/デパス)・ブロチゾラム(商品名/レンドルミン)etc..
・中間作用型(中間型):フルニトラゼパム(商品名/サイレース)・エスタゾラム(商品名/ユーロジン)etc..
・長時間作用型(長時間型):フルラゼパム(商品名/ダリメート)・ハロキサゾラム(商品名/ソメリン)

2⃣非ベンゾジアゼピン系睡眠薬・・・化学式にBZ骨格は持ちませんが、BZ系と同様の作用を示します。
                 ただし、副作用の筋弛緩作用はBZ系に比べて少ないのが特徴です。

・超短時間作用型:ゾルピデム(商品名/マイスリー)・ゾピクロン(商品名/アモバン)・エスゾピクロン(商品名/ルネスタ)の3種のみ


3⃣オレキシン受容体拮抗薬・・・オレキシン受容体へ拮抗作用をあらわすことで、過剰に働いている覚醒システム
               を抑制し、脳を覚醒状態から睡眠状態へ移行させる。服用開始から比較的早期に
               睡眠改善が期待できるうえ、反跳性不眠(睡眠薬を急に減量したり中断した場合
               に以前より強い不眠が出現すること)への懸念が少ないことが特徴です。
               現在、スボレキサント(商品名/ベルソムラ)・レンボレキサント(商品名/デエ

               ビゴ)の2種類のみ使用されています。現在、第一選択薬です。

 

4⃣メラトニン受容体作動薬・・・メラトニン受容体(MT1受容体やMT2受容体)に作用することで、体温を下げた
               り体内時計を同調させる。つまり、自然に近い形で脳とからだを睡眠へ誘導し
               ます。

               現在、ラメルテオン(商品名/ロゼレム)のみ承認されています。

5⃣その他・・・バルビツール酸系やブロモバレリル尿素、トリクロホスナトリウムなど通常の睡眠障害の治療には
       使用しない薬剤があります。

 

3.不眠症治療薬の使用方法

不眠症は治療薬と合わせて、生活習慣の改善が重要です。
基本的に、ベンゾジアゼピン系(BZ系)非ベンゾジアゼピン系(非BZ系)は毎日服用(内服)とその都度服用(頓服)の2種類があります。しかし、オレキシン受容体拮抗薬メラトニン受容体刺激薬は、耐性が生じるリスクが少ないためきちんと毎晩服用することが大切です。

BZ系や非BZ系は床についてもなかなか寝付けない場合や寝付いても目が覚めてしまった場合に遅い時間に服用すると、翌日に眠気が残ったり、頭の動きが鈍ったり、ふらついたりする「持ち越し効果」が現れることがあります。

人間の適正な睡眠時間としては7時間未満程度ですので、日中に長時間の昼寝をしたり、20時や21時など早い時間に寝床につくことは避けましょう。生活習慣の改善なくして、不眠症治療薬の使用はおすすめできません。

 

4.認知症との関係性について

不眠症治療薬の使用によって、認知症のリスクがあがるということは明らかになっていません。睡眠薬の連用が認知症リスクを高めるとするものとこれを否定するものがあり,結論は得られていません。

しかし,不眠症治療薬の使用により認知症が出現する可能性があるとする報告においても,服用開始初期に症状発現リスクが上昇したとされていることを考えると,お薬が神経機能に直接的な障害をもたらすのではなく,潜在的な認知機能低下を有する高齢者において,不眠症治療薬の服用により脳の機能抑制が生じた結果として認知症が顕在化した可能性があると思われます

一方で,慢性的な睡眠不足や不眠が認知症状発現リスクを上昇させるとする報告も確認されますので,不眠を放置せず低用量の睡眠薬で効率的に治療することが求められると言えるでしょう。

また、認知症の発症リスクをあげる要因は様々に考えられますので、今後の研究の動向に注目していきます。